大判例

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最高裁判所第三小法廷 平成9年(オ)1046号 判決

長崎県佐世保市卸本町一番二号

上告人

株式会社プレナス

右代表者代表取締役

塩井末幸

右訴訟代理人弁護士

松﨑隆

髙田昌男

江藤利彦

永山一秀

斉藤芳朗

鹿児島市荒田一丁目七番一六号

被上告人

株式会社ほっかほっか亭

右代表者代表取締役

木佐貫千代子

同所

被上告人

株式会社鹿児島食品サービス

右代表者代表取締役

木佐貫千代子

右両名訴訟代理人弁護士

井上正治

井上治典

井上逸子

鹿児島県姶良郡姶良町西餅田三四四四番地七六

右両名補助参加人

町田秀明

鹿児島市谷山港二丁目一番四

右両名補助参加人

株式会社マルモ

右代表者代表取締役

大茂健二郎

鹿児島県出水市昭和町五七番四〇号

右両名補助参加人

出水石油株式会社

右代表者代表取締役

松山勇

同加世田市本町八番地五

右両名補助参加人

有限会社清水商事

右代表者代表取締役

清水義夫

鹿児島市城南町三番三号

右両名補助参加人

株式会社城南フード

右代表者代表取締役

松山保

鹿児島県国分市中央一丁目五番一三号

右両名補助参加人

楠元允

宮崎県都城市大王町四五番六号二

右両名補助参加人

岡崎誠

鹿児島県川辺郡知覧町塩屋二八九〇六番地

右両名補助参加人

内村司

同姶良郡加治木町木田四〇八〇番地一二

(送達場所 鹿児島県姶良郡加治木町本町三七一)

右両名補助参加人

佐藤和昭

同曽於郡松山町新橋二六八番地

右両名補助参加人

大迫慧

同日置郡伊集院町徳重四七四番地

右両名補助参加人

山内ミツ子

鹿児島市西陵二丁目一九番一二号

右両名補助参加人

宝代重雄

右当事者間の福岡高等裁判所宮崎支部平成四年(ネ)第一五九号、同六年(ネ)第一二六号地位確認並びに商標使用等差止請求控訴、同附帯控訴事件について、同裁判所が平成八年一一月二七日に言い渡した判決に対し、上告人から上告があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人松﨑隆、同髙田昌男、同江藤利彦、同永山一秀、同斉藤芳朗の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 金谷利廣 裁判官 千種秀夫 裁判官 元原利文 裁判官 奥田昌道)

(平成九年(オ)第一〇四六号 上告人 株式会社プレナス)

上告代理人松﨑隆、同髙田昌男、同江藤利彦、同永山一秀、同斉藤芳朗の上告理由

[目次]

第一 契約上の地位の移転に関すな重大なる事実誤認・法解釈適用の誤り

……………………………………一頁~一七頁

第二 更新拒絶に関する審理不尽・法解釈適用の誤り

…………………………………一八頁~三八頁

第三 期間満了後相当期間経過による契約の終了に関する審理不尽・釈明義務違反・法解釈適用の誤り

…………………………………三九頁~四一頁

第四 結論 …………………………………四二頁

(以下、原判決あるいは第一審判決を引用する際に、当事者の表示について、株式会社プレナスに該当する当事者の表示を「上告人」、株式会社ほっかほっか亭に該当する当事者の表示を「被上告人ほっかほっか亭」、株式会社鹿児島食品サービスに該当する当事者の表示を「被上告人鹿児島食品サービス」、という。)

第一 契約上の地位の移転に関する重大なる事実誤認・法解釈適用の誤り

一 原判決の判断

原判決は、第一審判決(二二丁表一二行目~裏一行目)を引用して、「上告人との間で、被上告人鹿児島食品サービス及び被上告人ほっかほっか亭の両者が、地区本部たる地位を持つという非典型的、並行的な契約関係が成立したとみるべきである。」と認定している(原判決一二丁裏五行目~一三丁表二行目)。しかしながら、かかる判断は、判決に影響を及ぼすこと明らかな重大なる事実誤認か、または法律の解釈適用を誤った違法があるというべきであり、到底破棄は免れないものと思料する。その理由はつぎのとおりである。

二 契約上の地位の移転可能性の欠如

1 そもそも契約上の地位が譲渡されるためには、それが、移転しうるものでなければならない。すなわち、取引観念によって、契約上の地位を構成する要素のうちの債務の内容が譲渡人以外の第三者によっても実現しうるものでなければならないということであるが、上告人と被上告人鹿児島食品サービス間の「ほっかほっか亭地区本部契約」(以下、本件地区本部契約という)は、講学上いわゆるフランチャイズ契約と称されるものであり、両者の一体的・統一的イメージに基づく組織的運営を本質的要素として(甲七の一・二の各第一条、第七条二項)、同一のマークを使用して統一的営業をする権利を有すると同時にその義務も負うなど債権と債務とが表裏一体の関係にあり(同第三条、同第六条、同第七条)、フランチャイザーたる上告人がフランチャイジーたる右被上告人に対し経営に必要な無償・有償の包括的サービスを継続的に提供し、右被上告人はこれに従って営業し(同第六条)、その結果を報告する(同七条三項)ことなどによって密接で継続的な企業間の結合が生じることから、上告人が右被上告人の能力と信用とに期待したからこそ締結されたものであって、他の者によって履行できるものではないので、その性質上移転可能性がないものである。

2 仮に、本件地区本部契約に性質上の移転可能性があったと仮定しても、上告人と被上告人鹿児島食品サービスとは、同契約(甲七の一)第八条で、「地域本部は、南日本事務機株式会社(注、右被上告人の旧商号)ほっかほっか亭鹿児島県地区の地区本部としての資格と能力の存することを根拠に、本契約を締結したものであり、本契約は譲渡性のないものであることを確認する。」と合意することによって、本件地区本部契約上の地位の譲渡を禁止しているのであって、結局本件地区本部契約には移転可能性がないといわざるをえない。

もっとも、右合意に基づく譲渡の禁止は、これをもって善意の第三者に対抗できるか否か別途検証すべきことであろうが、少くとも被上告人ほっかほっか亭が善意の第三者ではなく、右譲渡禁止特約を知っていたことは、原審の弁論の全趣旨から明らかである。

三 譲渡契約の不存在

1 つぎに、本件地区本部契約上の地位の移転という法律効果を発生させるためには、そのための法律行為としての譲渡契約が必要である。被上告人鹿児島食品サービスの本件地区本部契約上の地位を、包括して被上告人ほっかほっか亭に移転することを目的とする、一箇の法律行為が必要なのであるが、原判決は、第一審判決(二一丁裏九行目以下)を引用して、「営業譲渡契約書、株主総会議事録等本来当然あるべき書証の提出がないばかりでなく、前記認定のとおり、上告人に対してはその後も契約書等において『鹿児島食品サービス』の名称を使用していることなどからすると、地区本部契約に基づく地位が被上告人ほっかほっか亭に移転し、被上告人鹿児島食品サービスが地区本部契約上の地位を離れたとは到底認められない。」とし、本件地区契約上の地位の譲渡契約はなかったと認定し、したがって、被上告人鹿児島食品サービスが本件地区本部契約上の地位から離れたものではない、としている。にもかかわらず、先に述べた如く、結局のところ原判決は、被上告人両者が地区本部たる地位を持つという非典型的、並行的契約関係が成立したとみるべきであるという、極めて論理的な整合性を欠く結論を導いている。

2 これは、原判決が、本件地区本部契約上の地位についての譲渡人(被上告人鹿児島食品サービス)と譲受人(被上告人ほっかほっか亭)間の譲渡契約の有無及びその性質(免責的譲渡契約か非免責的譲渡契約か)の問題と譲渡契約についての契約相手方(上告人)の意思的関与(承認)の有無の問題とを明確に区別して立論しなかったことに帰因するものである。少なくともこの段階では、被上告人鹿児島食品サービスと被上告人ほっかほっか亭との間で、本件地区本部契約上の地位についての譲渡契約があったのか否かについての明確な結論を出して、そのうえでそれが被上告人鹿児島食品サービスに債務をも残存させないこととするもの(免責的譲渡契約)なのか、債務のみ負担したままであるということを内容とするもの(非免責的譲渡契約)なのかの検討をすべきだったのである。

3 ところが、先に述べた如く原判決は、「営業譲渡契約書、株主総会議事録等本来当然あるべき書証の提出がない…」として「地区本部契約に基づく地位が原告に移転し、……たとは到底認められない。」と読むことによって、譲渡契約が認定できないとしているようである。だとすれば、つぎの上告人の意思的関与(承認)の問題に移るまでもなく、本件地区本部契約上の地位の譲渡はなかったとされなければならない。

四 上告人の意思的関与の不存在

1 にもかからず、原判決は、第一審判決(二二丁表二行目以下)を引用して、「〈1〉上告人は、昭和五七年に被上告人ほっかほっか亭が『株式会社ほっかほっか亭』の名称でもって仮処分申請をしたことを知っていたこと、〈2〉また、その後昭和六三年に本件訴訟が提起されるまで、何らかの異議はもちろん、問い合せすらしなかったこと、〈3〉被上告人鹿児島食品サービスと被上告人ほっかほっか亭は、同一の代表者及び同一の所在地にある法人であり、その実体は同一の法人格に近いものであり、上告人にとって被上告人鹿児島食品サービスが地区本部契約上の地位を離れ同契約上の債務を免れてしまうのは格別、被上告人鹿児島食品サービスが地区本部契約上の地位を有しつつ、被上告人ほっかほっか亭にも地区本部たる地位を認めることにつき特段の不利益はない…」として、「上告人は、昭和五七年以降、…被上告人ほっかほっか亭も地区本部契約上の地位にあることを黙認」していたと、黙示の承認を認定しているが、余りにも強引で論理的整合性を欠くものと言わざるをえない。

2 まず、先に述べたとおり、被上告人鹿児島食品サービスと同ほっかほっか亭間の譲渡行為の有無及びその性質を明確に認定しないまま、漫然と上告人の意思的関与、すなわち、承認の問題に入った点に原判決の致命的欠陥があるが、それをひとまず置いたとしても、上告人の黙示の承認についての認定が余りにも杜撰としか言いようがない。

3 一般に契約上の地位の譲渡が、譲渡人(被上告人鹿児島食品サービス)と譲受人(被上告人ほっかほっか亭)間でなされた場合、契約相手方(上告人)の承認があれば契約相手方との間で効力を生ずるとされており、この承認は、譲渡人の契約相手方に対する債務の免除まで行うもの(免責的承認)と譲渡人の債務を消滅させずにこれを負担したままとするもの(非免責的承認)とがあるが、原判決は、承認(又は黙示の承認)があったか否かの問題と、承認があったことを前提として、それが非免責的承認か免責的承認(黙示の免責的承認)かの問題についても、これらを明確に区別することなく論じている。

すなわち、前記1〈1〉について言えば、上告人としては、ただ仮処分申請書の申請人として「株式会社ほっかほっか亭」の記載があることを認識していただけに過ぎないし、甲八によれば、この申請人である被上告人ほっかほっか亭は、当時被上告人鹿児島食品サービスと上告人とが本件地区本部契約を締結していたにもかかわらず、仮処分申請の便宜を考えたのか、被上告人ほっかほっか亭と訴外株式会社ほっかほっか亭総本部が鹿児島地区本部契約を締結しているかの如き重大な虚構を作出して、裁判所まで騙していたことが窺えるのであり(甲八、一六丁表一三行目以降)、このことをもって本件地区本部契約の譲渡についての上告人の黙認行為の一つとは言えない。同1〈2〉については、単に上告人が「異議はもちろん、問い合せをしなかった」即ち「黙っていた」と言うだけであり、これをもって直ちに「黙認」にまで結びつけるのは乱暴な推認である。なぜなら、原判決がいうように「何らかの異議はもちろん、問い合せすらしなかったこと」は、前記譲渡行為があったとしても、それを全く知り得なかったからこそ発生しうる事態であることを考慮すれば、上告人が被上告人ほっかほっか亭に対し本件地区本部契約上の債務の履行請求をするか、その履行を受け入れるなど契約相手方たる上告人の意思的行為があるのなら格別、単に「黙している」行為を「黙認」とまでいうのが不合理であることは明らかだからである。

特に、本件地区本部契約には、先に述べた如く、契約上の地位の譲渡についての禁止条項があるのだから、契約当事者がかかる条項の適用を排除しようというのであれば、これに関する排除の意思が明示にせよ黙示にせよ、もっと明確になされなければならない筈である。

そして、同1〈3〉は上告人の黙認を認定する要素の一つでないことは明らかであり、これを認定した後の利益状況の衡量の問題であり、結局これら〈1〉ないし〈3〉をもって上告人の「黙認」を認定することはできないといわざるを得ない。

しかも、原判決は、「黙認」と未分化のまま「非免責的承認」をも認定していることからも、いかにもその論理構成が未熟であるか容易に理解できる。

4 さらに、原審の証拠を他に検討しても、上告人は本件地区本部契約上の地位の移転という事実自体についてまったく知りえなかったというしかない。なぜなら、原審判決の引用する第一審判決も認定したとおり(第一審判決二一丁表一二行目~裏三行目)、商号変更により被上告人ほっかほっか亭が法的存在となる昭和五七年七月六日以前においても、被上告人鹿児島食品サービスは自らの通称として「株式会社ほっかほっか亭」なる名称を使用しており(乙六九の昭和五六年一〇月一七日付けの加盟契約書、乙六五の同五七年四月一三日付けの加盟契約書)、これらの加盟契約書において本部の欄に記名押印されている会社名は「株式会社ほっかほっか亭」であり、これは被上告人鹿児島食品サービスの通称としての意味しか持たないはずであり、上告人も特に右通称の使用については文句を述べたことはない(力武調書一三八~一五一項)ので、昭和五七年七月六日以降に契約上の地位の譲渡が行われ、「株式会社ほっかほっか亭」なる名称に別個の意義が付されたとしても、上告人宛に譲渡の通知等がない限り上告人において本件地区本部契約上の地位が移転したことを認識せよ、と要求してもこれは不可能な要求だからである。特に、債権譲渡の対抗要件(民法四六七条)又は催告よる譲渡行為の追認(民法一一四条の類推)等の要請からも被上告人鹿児島食品サービスは、上告人に対し、右譲渡の通知をするべきであったし、することができたのだから、かかる通知を怠った不利益を後に自ら被ることがあったとしても、やむを得ないことである。

それどころか、昭和五七年以降も上告人との間の本件地区本部契約はすべて被上告人鹿児島食品サービスが当事者となっているという事実が存する。すなわち、原判決の引用する第一審判決も認定したとおり(第一審判決二一丁表六行目~一〇行目)、昭和六一年五月一日に上告人との間で本件地区本部契約を締結しているのは被上告人鹿児島食品サービスである。また、同六三年七月五日付け「回答書」(甲一一)において、「弊社傘下の加盟店」(二1ハ)、「弊社との間に締結された地区本部契約書」(二3)と書き並べ、差出人たる被上告人鹿児島食品サービスは、自らが鹿児島地区本部たる地位にあることを認めている。これらの事実は、被上告人鹿児島食品サービスが本件地区本部契約解除当時において地区本部たる地位にあったことを前提としないと説明のつかない事実である。被上告人両名の代表者であった本佐貫は、右昭和六一年五月一日付け本件地区本部契約書に被上告人鹿児島食品サービス名義で記名したのは、当時上告人との信頼関係が存したから特に株式会社ほっかほっか亭名義にこだわらなかった旨証言しているが(甲七九、一五六~一五九項)、そうだとするなら、両者間の信頼関係が破壊された昭和六三年七月には被上告人ほっかほっか亭名義にて回答書を出すはずであるが、現実には同社名義で出されておらず、右証言は信用できない。

つぎに、鹿児島地区内に存する加盟店が毎月支払うべきロイヤリティ・食材代金等の振込先は加盟店契約に基づき被上告人鹿児島食品サービス名義の銀行口座となっている(甲三、加盟店契約書付属業務規定第六号、甲七九、四四二~四四三項)。このことは依然として被上告人鹿児島食品サービスが本件地区本部契約に基づく地区本部たる地位に存することを前提としてはじめて理解できる事実である。

5 以上検討したところによれば、上告人が、被上告人鹿児島食品サービスと同ほっかほっか亭間でなされた本件地区本部契約上の地位の譲渡契約を黙認した、と認定しうる証拠は原審証拠のどこにもないというしかない。

そして原判決は、「上告人にとって、被上告人鹿児島食品サービスが地区本部契約上の地位を離れ同契約上の債務を免れてしまうのは格別、被上告人鹿児島食品サービスが地区本部契約上の地位を有しつつ、被上告人ほっかほっか亭にも地区本部たる地位を認めることにつき特段の不利益はない…」とするが、そのようなことはない。すなわち、契約当事者たる譲受人の債務は、譲渡人に残存する債務に比して一次的なものであり(日本評論社刊「講座現代契約と現代債権の展望 債権総論〔1〕」第九項 須藤正彦著二二二頁)、その義務の履行の確実性は譲受人の人格、資力、能力の如何にかかわるものであるから、原判決のいうように代表者と所在地とが同一であっても(これらは何時でも変更できるものであるし)、法人格としては別である以上(原判決はその実体は同一の法人格に「近い」という、極めて情緒的で曖昧な言い方をしている)、被上告人ほっかほっか亭に鹿児島地区本部たる地位を認めるか否かは契約相手方たる上告人にとって死活的問題であり、また原判決の判示するように被上告人らが併存的(原判決は併行的にと言うが)に地区本部たる地位を有することも後述するとおり上告人に常に有利に働くとは限らないからである。

五 並行的な契約関係という構成の非合理性

1 原判決は結論として、上告人からの前記一ないし四の批判を回避する手法として、「(被上告人ら)両者が、地区本部たる地位を持つという非典型的、並行的な契約関係が成立したとみるべきである。」とするが、かかる認定があり得ないものであり、あったとしても如何に法的安定性を害し、当事者の意思に合致しないものであるかについて検証する。

2 一般に契約上の地位の譲渡契約には、免責的譲渡契約と非免責的譲渡契約があることは、既に述べたとおりであるが、該譲渡契約が契約上の地位を包括的に移転させることを意思内容とするものである以上、譲渡契約は、免責的譲渡契約(譲渡人の契約上の地位を譲受人に包括的に移転させ、しかも譲渡人はもはや契約相手方になんら債務を負わないとする場合である)か、非免責的譲渡契約(譲渡人の契約上の地位を譲受人に包括的に移転させるも、譲渡人は契約相手方に、契約上の地位を構成しないがしかし、譲渡時に同人に対して負担していたのと同内容の債務を負担したままであるとする場合である)か、のいずれかであり、裸の譲渡契約ということはあり得ないし(前掲須藤著書二一三頁、二一四頁)、同様に、承認も、契約上の地位が譲渡人から譲受人に包括的に移転することを容認することを内容とする意思表示である以上、免責的承認(契約当事者が変更することも、譲渡人の債務が消滅することも異存ないという場合である)か、非免責的承認(譲渡人が相変らず債務を負ったままでいる限りにおいて契約当事者の変更は異存ないという場合である)か、のいずれかであり、裸の承認ということはあり得ない(前掲須藤著書二一八頁)のだから、全く同一の契約上の地位が被上告人らに、ともに存在するというのは考えられない。

でなければ、本件地区本部契約上の地位に基づく解除権や取消権その他の形成権も被上告人両者に存することになり、かかる権利は両者が別々に又は共同でのみ行使しうるのか、一方の当事者に生じた解除事由や取消事由の他方当事者に対する効果、その行使を受ける地位は両者が別々に又は不可分に有するのか、一方当事者が受けた権利行使の結果の他方当事者に対する効果及び人的物的担保に対する効果等々問題を徒に複雑にするだけであり、契約相手方(上告人)に過大な負担を負わせ、法的安定性を著しく害するものであり、原判決の認定は契約当事者の合理的意思解釈から大きく逸脱するものと言うしかない。

六 まとめ

このような契約上の地位の譲渡の問題は、契約上の地位の移転、契約譲渡、免責的譲渡又は契約引受、非免責的譲渡又は契約加入等の問題として、我国の民法学上未解明の部分も多く、判例・学説も必ずしも充分ではないが、少くとも右非免責的譲渡又は契約加入(併存的な契約上の地位の移転)についての我国学説の現時点での到達点は、「債権譲渡・債務引受の結合によっては契約関係は移転できないという前提のもとに諸要素の中の債務のみを併存的にしようとするものである。」(帝京法学一七巻二号斉藤充弘著「契約上の地位の譲渡に関する一考察」二六四頁下段七行目)とか、「当初の契約上の債務は免責的に移転せず、かえって加入者(=引受人)がその債務について共同的責任を負う…」(有斐閣注釈民法(11)債権(2)四七六頁椿寿夫著)というものであり、債務のみならず本件地区本部契約上の地位が全て被上告人両名に併存するという原判決は、いかに私的自治の原則を強調して「非典型的契約関係」といったとしても、異説中の異説であり、先に述べたとおり、契約相手方(上告人)の利益を不当に害し、法的安定性を揺るがし、そしてなによりも当事者の合理的意思に反する重大な事実誤認または法律の解釈適用の誤りがあるとしかいいようがないものであり、この一点のみにおいても、破棄されなければならないと考える。

第二 更新拒絶に関する審理不尽・法解釈適用の誤り

一 原判決の認定と不服の理由

原判決は、「上告人の本件更新拒絶の意思表示は、公平の観念に照らして、信義則上許されないものというべきである」としている。しかしながら、この判断は、原審において十分な審理を尽くさずになされたものであり、ひいては、信義則に関する法解釈適用を誤ったもので、是認することはできないものと思料する。その理由はつぎのとおりである。

二 期間満了による契約の終了

1 まず、最初に押さえておかなければならないのは、当事者間で契約期間を定めた以上は、契約はその期間満了によって終了するという点である。

2 このことは、原判決も当然の前提としている(二一丁裏一〇行目~二二丁表八行目)。すなわち、契約の更新拒絶にやむえをえない事由が必要である旨契約書で定められていたような場合や借地・借家法のように法律で更新拒絶には正当事由が必要である旨定められていた場合ならいざしらず、本件地区本部契約のように、単に契約期間が定められているに過ぎないときには、契約期間が満了したら契約は終了するのが大原則である。

3 他方で、原判決がいうように、更新拒絶の意思表示が信義則違反になるような事例が存することもまた事実である。しかしながら、更新拒絶権の行使が信義則違反となるのは、期間満了により契約が終了するという大原則を破る例外的なものである以上、あくまでも、両当事者双方の事情を等しく総合的に考慮したうえで、慎重に判断されなければならない。しかしながら、原判決は、このような考え方を取らずに、つぎに述べるとおり、被上告人ら側の事情のみを主として取り上げて信義則違反を認定している。

三 過去の経緯

1 原判決は、第一に、「地域本部の上告人も、契約上、地区本部である被上告人らに対してなすべきことが前提とされているサービス、特に、食材の調達及び供給並びに消費者のニーズに応える商品開発等について、能力・体制が欠けいていたため、地区本部である被上告人らが鹿児島県内においてほっかほっか亭フランチャイズシステムの維持・拡大を図るために独自に食材の調達及び供給ルートの確立並びに消費者のニーズに応える商品開発の努力をしなければならなかったこと、鹿児島県内におけるほっかほっか亭の商号、商標、サービスマーク等のイメージの定着及び普及は専ら地区本部である被上告人らの貢献によるものであること」(二二丁表一〇行目~裏一〇行目)、「上告人の主張している被上告人らの…契約違反は、…上告人が整備した体制・経営方針に副わなくなったことによるものであり、被上告人らの側には酌むべき事情もあること」(二三丁裏七行目~一一行目)等を認定し、信義則違反の理由として、過去の経緯を取り上げた。

2 しかしながら、原判決が信義則違反を判断する際に取り上げた右事情は、まさに被上告人鹿児島食品サービスが上告人との間で本件地区本部契約を締結した昭和五五年一一月二一日直後頃にのみ発生していた過去の一時期の事態に過ぎないにもかかわらず(本川四回目調書一七四~一九八項)、原判決は、このような事態を固定的に捉えるという誤りを犯している。本件地区本部契約を締結して以降、本件地区本部契約の更新拒絶に至るまでの約八年間の間に、後述のとおり、上告人は九州地域全域での食材の調達・供給システムを確立し、商品開発等を実行してきており、この実行過程には、被上告人鹿児島食品サービスも必ず参加している。それにもかかわらず、被上告人鹿児島食品サービスが独自の食材の調達・供給システムや商品開発等に固執し続けたために、上告人は長期間にわたりその翻意を促したが、被上告人鹿児島食品サービスがそれに従わなかったので、やむをえず、更新拒絶の意思表示をしたのである。原判決はこのような事情をまったく考慮していないが、第一審判決が認定した事実を中心に、上告人が更新拒絶の意思表示をしなければならなかった事情をつぎのとおり取り上げるべきであった。

(一) 昭和五六年二月時点の店舗数は九州全域でわずか一三店舗に過ぎなかった。しかし、一年半後の同五七年八月時点では一八五店舗に急増している。その後も、店舗数は年間三〇~五〇店舗の割合で増加している(乙四七)。このような店舗展開が進むなか、各地区本部・各加盟店の要望・意見を集約し、検討する場が必要となってきた。このため、同五七年一月以降各地の代表者を集めて会議を開催するようになった(乙六〇、名称や構成は何度か変更されているが、以下、ブロック会議という)。同六一年三月以降は、ブロック会議を福岡・鹿児島・宮崎・沖縄の各地区本部で開催し、ブロック会議後は、開催地の各地区本部が主催し当該地区のオーナー・店長を集めて開く店長会議に上告人のスタッフも加わっていた。これは、上告人の担当者が、加盟店オーナーから直接意見を聞き、指導を行うことを目的としていたためである(斉藤一回目調書一〇二~一一一項、一五四~一六三項)。

(二) 上告人は、メニューの販売、食材の改良、キャンペーンの実施についてすべてこのブロック会議に諮り、会議の決定を以って実施に移している(例えば、新メニュー「ステーキ弁当」の販売が決定される過程を見ると、同五九年七月に販売を決定し、試作品を販売し、その後九月に付け合わせ部分を変更して再度テスト販売を行ない、一〇月に最終決定を行なっている。同時に、ステーキ弁当販売キャンペーンを実施することも一〇月に決定されている(乙四九、斉藤一回目調書一三三~一四〇項))。

(三) ブロック会議はメニュー・食材・キャンペーンに関する意思決定機関であり、この会議で承認されないと新商品の販売もしていない(例えば、同六〇年七月にはシーフードステーキ弁当を販売することが決定され、八月にはメンバーで試食しているが、一〇月にはこの弁当の販売を行なわないことが決定されている(乙四九)。シーフードステーキ弁当の販売が中止になったのは、ブロック会議で否決されたからにほかならない)。

(四) このようなブロック会議には、被上告人鹿児島食品サービスを代表して、西村、福永、鶴野が出席していた(斉藤一回目調書一六四~一六六項)。

(五) 地区本部契約締結から三年半経過した同五九年四月頃には、被上告人ら側(注)は、上告人に対し、「安い食材があれば地区本部が個別に業者から納入してもよいのではないか。」との提案をした。上告人はこれに対して、「そのようなことをすれば、他の弁当販売店と比べてほっかほっか亭の独自性がなくなってしまう。そうしたければ、鹿児島地区本部には、ほっかほっか亭の看板を降ろしてもらう。」と諭す場面(乙一四、五頁)も生じている(第一審判決二五丁裏二行目~五行目)。

(六) それから一年後の同六〇年三月二日に、被上告人ら代表者であった木佐貫は、上告人宛てに誓約書(乙四)を提出した。このような誓約書を差し入れることになった経緯は、三か月分のロイヤリティー等約八〇〇万円の支払を遅滞していたこと、「濃口・淡ロ醤油」「うなぎたれ」「のり類」等の食材を統一するために、上告人が店舗への食材の供給を委託している業者(トーホー)があるが、被上告人ら側はトーホーではなくて、独自の業者から仕入れた食材を使っていたこと(乙二六)、キャンペーンに要する経費を鹿児島地区だけ縮小して加盟店から徴収していたこと(乙二五、六頁)等である。被上告人鹿児島食品サービスは、この誓約書を提出することによって、本件地区本部契約に違反したことを陳謝するとともに、今後は、ブロック会議の決定事項を尊重すること、上告人の仕入システムにしたがうこと等を誓約し、逸脱行為の解消を実行しないときには契約の解消を含めていかなる措置を取られても異存ないことを確約した。原審は、このような事実もまた認定しているのである(第一審判決二五丁表六行目~二六丁表九行目)。

(七) 上告人は、同六三年初めには、鹿児島県農業協同組合連合会からの鶏肉の仕入を停止し、全面的に、タイ国からの仕入に切り替えたが、被上告人ら側は、同連合会との付き合いもあり、タイ国の業者からの鶏肉を仕入れず、同連合会からの納品を継続していた(第一審判決二六丁表一〇行目~裏四行目)。

(八) 被上告人ら側は、同六三年四月頃、焼肉弁当の販売が中止されたにもかかわらず、これと同様の焼肉を使った生姜焼弁当を製造・販売し、六月にはほっかほっか亭のネーム入りジュースの仕入も拒否した。また、すき焼き弁当に関して、調理マニュアルと異なった手順・方法で調理している。「のり類」「おかか」等の食材も独自の業者からの仕入で対応し、上告人が指定した業者(トーホー)からの仕入を行なっていなかった。また、配送費用のかかる離島の店舗に対する納品はトーホーを利用し、その他の県内の店舗に対する配送は独自の業者で行なうという食材もあった(第一審判決二七丁表三行目~二九丁裏五行目)。なお、「(トーホーを通じての統一食材の仕入額)÷(各店舗の弁当売上高)」は、上告人の平均的店舗で、約三二%であるところ、被上告人ら側傘下の加盟店では、これが、約一九%に過ぎなかった(乙七〇、七一、力武調書九七~一一三項)。

(注)第一審判決及びこれを引用する原審判決は、この行為主体を「原告」と認定するが、乙一四には、鹿児島地区本部と表示されているに過ぎないのに、これを漫然と「原告」=被上告人ほっかほっか亭と認定する原判決は事実誤認といわざるをえない。特に、第一審判決は二三丁裏一一行目の「原告」の表示以降被上告人のどちらか明らかでない場合も、また、生の事実としては被上告人鹿児島食品サービスであることが明らかな場合も、行為主体として「原告」=被上告人ほっかほっか亭と言い切っているのは基本的な間違いと言えよう。したがって、本上告理由書では、被上告人のどちらか一義的には明らかでない場合は、「被上告人ら側」という。

3 まとめ

原判決は、信義則違反か否かを判断するに際して、過去の経緯を取り上げているが、本件地区本部契約締結時である昭和五五年一一月から更新拒絶の意思表示をした昭和六三年八月までの間の約八年間には、右述のとおり、当事者間で様々なやり取りがなされているのである。

本来フランチャイズシステムというのは、最初から完璧な組織を造り上げて展開できるものとは限らず、また完璧と思われる組織で展開を開始しても、常に時流に遅れることがないような変化と革新を求められるものである。本件のようになんらの実績もない鹿児島地区に加盟店を創設して行く場合、常にゼロからの出発となり、これを拡大する過程で組織を整え、革新性を宿ししつつ、統一と一体性とを目指すものでなければフランチャイズシステムとはいえない。本件地区本部契約は完成されたフランチャイズシステムを前提にしていると原判決は認定している(一八丁表九行目~裏二行目)が、むしろ当事者が互いに協調してフランチャイズシステムとして統一的経営が完成することを目指したものと読むべきである。であるとすれば、たとえ、契約締結時に未完成な部分があったとしても、統一と一体性を本質的要素とするフランチャイズ契約の当事者として、協調を目指して交渉し努力をすべきであるのに、前記のように長期間にわたってこれを怠った被上告人ら側の責任は重いといわなければならない。

原判決は、これらの事情を無視して、あたかも「最初が統一されていなければ、いつまでも勝手にやっていい」というがごときであり、フランチャイズシステムを根底から否定するものであり、被上告人らの側の事情を主に、考慮の対象に入れて、信義則違反である旨の結論を下しており、不当というしかない。

四 更新拒絶によって被上告人ら側が被る不利益の不存在

1 原判決は、第二に、「地域本部による契約更新の拒絶が認められると、地区本部である被上告人らがほっかほっか亭の商号、商標、サービスマーク等が使用できなくなるだけでなく、被上告人らの長年にわたる投資と努力の結果築き上げた加盟店が鹿児島地区本部との加盟店契約を解消して、地域本部である上告人との間で加盟店契約を締結し、地区本部である被上告人らの築き上げた基盤を地域本部である上告人が労せず獲得するという結果になりかねないこと」として(二二丁裏一〇行目~二三丁表七行目)、更新拒絶によって被上告人ら側が被る不利益の大きさを信義則違反の理由として取り上げている。

2 しかしながら、本件地区本部契約では、被上告人ら側の傘下にある加盟店が、契約期間満了により上告人傘下の加盟店に自動的に移行するという規定にはなっていない。すなわち、本件地区本部契約第一二条二項は、「地区本部の連盟店に対する権利は、地域本部において自動的に継承するものとし、これを処理するものとする。」と定めているが、これは、その条項の標題及び第一項から明らかなように、地区本部に契約違反があり、地区本部が損害賠償責任を負う場合に適用される規定である。期間満了による契約の終了に際して、この条項が適用されることは予定されていない。現に、被上告人ら代表者であった木佐貫も、第一審において裁判官からの同趣旨の質問に対して、期間満了によって本件地区本部契約が終了しても、傘下の加盟店は被上告人ら側のもとに残る旨の回答をしており(甲七九、六三〇~六三七項)、契約上、被上告人ら側傘下の加盟店が自動的に上告人の加盟店に移行するということはありえないのであり、第一審判決も同意見である(第一審判決三四丁表一一行目~裏二行目)。

3 また、本件地区本部契約が終了して、被上告人ら側がほっかほっか亭の看板を下ろさなければならなくなったときに、被上告人ら側傘下の加盟店が被上告人ら側との加盟店契約を解消するといった事実上の不利益が発生しないかどうかであるが、このような事態も発生しない。なぜなら、被上告人ら側傘下の加盟店は、本件訴訟及び被上告人ほっかほっか亭が上告人を相手取って提起した損害賠償請求訴訟(最高裁平成八年((ネオ))第五四号)に補助参加しているほか、独自で、上告人を相手取って、損害賠償請求及び出店差止を求める訴訟を提起しているほどである(最高裁平成八年((ネオ))第五七号)。さらに、被上告人ら側傘下の加盟店は、九州各県に点在する上告人の加盟店に対して、「商道徳を無視した上告人の行為に怒り」と題する書面(乙七二)を郵送する等の行動も起こしている。

このような点から見れば、被上告人ら側の団結は強く、本件地区本部契約が解消されたからとって、被上告人ら側傘下の加盟店が被上告人ら側との加盟店契約を解消することは実際問題としても起きえないと考えられるからである。

4 まとめ

よって、前記1で原判決が指摘したような事態の発生を信義則違反の一事情として取り上げることは相当でない。

五 上告人の対応の相当性

1 原判決は、第三に、「上告人は被上告人らの契約違反を理由に本件地区本部契約の解除や和解案の提示をする一方、被上告人ら傘下の加盟店に対し…喧伝・唆しをして離反を促し、本件地区本部契約の更新拒絶の意思表示に及んでいること」を挙げ(二三丁表八行目~裏一行目)、かかる上告人の対応を信義則違反の理由の一つにしている。

2 しかしながら、上告人が被上告人ら側の加盟店を訪問したのは、昭和六三年七月八日以降本件地区本部契約が失効することにともない、被上告人鹿児島食品サービスへの食材・包材の供給がストップする事態が発生しかねないことを知らせ、本件地区本部契約の解除により上告人が地区本部たる地位を引き継ぐこと、及び本件地区本部契約を解除するに至った経緯を説明することが目的であり(甲七の二、本川二回目調書四七~五四項)、原判決がいうような宣伝・唆しを目的としたものではない。

3 しかも、上告人による事情説明は、つぎに述べるとおり、強圧的なものではなかった。

(一) すなわち、同年七月五日に被上告人ら側の主催で開催された加盟店説明会には、四二名のオーナーのうち一、二名を除くすべてのオーナーが出席しており(甲六五、二五六~二六六項、二七七~二八四項)、その席上、まず、被上告人ら側弁護士が文書を示して状況を説明し、木佐貫が、上告人の方が契約に違反しているので、結束を固めようと説明し(甲八二、五五~八一項)、食材も確保してあり、商標権はダイエーが持っているから心配ない、株式会社ほっかほっか亭総本部は権利を持っていない(甲六六、七四~一〇二項、二一〇~二一一項)等の説明がなされ、宮崎地区本部の浜辺社長も出席し、木佐貫は黒板に、「東京総本部(実質はダイエー)と鹿児島が直結する」旨の図を書いて説明し、西原商会が今後食材を配達する、といって発注表を配布し、会議の後にはパーティーも用意してあった(迫調書、一一二~一六六項)。

(二) また、一旦は上告人との間で仮契約を締結したオーナーに対して、上告人は、仮契約の履行を迫ったりしていない。町田オーナーは七月一五日頃に上告人と仮契約を締結したが(甲八二、一〇四~一〇九項)、翌日撤回している(同、一二九~一三九項)。七月二〇日に上告人主催の会議が開催され、当日、町田オーナー、森山オーナーも出席していたが、彼らは最終的には被上告人ら側の傘下に留まった(甲六五、二九五、二九六項)。町田オーナーは上告人に対して自分の店舗の買上げを要求し(甲八二、八六~九九項)、尾堂オーナーは上告人担当者を追い返している程である(甲六六、三五~五九項)。

(三) このように、七月四日以降に、上告人による一方的な唆しがなされた訳ではない。別件事作(最高裁平成八年((ネオ))第五四号)の第一審判決は、「上告人と仮契約を結んだ各店舗も、被上告人と上告人の双方の説明を聞いて自己の利害等を十分な考慮のうえ上告人と仮契約を結んだものと認められ、上告人の各加盟店に対する言動には、高圧的な面があったとしても、被上告人の主張するように各加盟店が被告の強要により、上告人との間に仮契約を結んだものとは到底認められない。」との評価を下しているところである(三八丁裏六行目~一〇行目)。

4 まとめ

被上告人ら側の傘下の加盟店オーナーは企業の経営者ばかりである。このような経営者であれば、双方の言い分を聞いて、自ら判断を下すだけの能力を有している。現に、右述のとおり、各オーナーの判断で対応を決している。このような経営者に対して、「唆し」とか「離反を促す」といった言動を取ること自体が不可能であって、これを信義則違反の一事情に加味することは相当でない。

六 誓約書の規範性

1 原判決は、第四に、「乙第四号証の…誓約書は、それを提出しなければ上告人から被上告人鹿児島食品サービスに以降食材、包材の供給を一切停止すると通告され、また、上告人の代表取締役塩井から独立するように言い渡されたことによるものであること」を挙げ(二三丁裏三行目~七行目)、誓約書の規範力を考慮しないかのようである。

2 しかし、三2(六)でみたとおり、被上告人鹿児島食品サービスには、右誓約書作成当時、主として、代金・ロイヤリティー不払を中心としていくつかの債務不履行があり、上告人は口頭にて何度も、また、鹿児島までスタッフが赴き、その履行を催促し、かつ内容証明まで送付しているのである(甲六三((四回目調書))、一四六~一六八項)。

3 かかる事情のもと、独立した商人間で任意に作成された右誓約書であれば、当事者間でそれ相応の法規範として妥当性を有することは当然のことであり、第一審判決は、右誓約書を根拠に「食材の独自仕入等の契約違反を反復継続すれば、上告人が本件地区本部契約の更新拒絶をしてくることが、既に昭和六〇年頃には予測できた…」と認定している(三五丁表一行目~五行目)とおりであり、これらの規範力について一顧だにしない原判決の前記認定は、批判を免れない。

七 自動更新条項の不適用

1 原判決は、第五に、「本件地区本部契約は契約期間満了の一八〇日前に当事者双方から特別の申出のない限り、自動更新となる建前であり、更新拒絶が原則となっていること」を信義則違反の事情に挙げている(二三丁裏一一行目~二四丁表二行目)。

2 しかしながら、本件地区本部契約については、つぎに述べるとおり、当事者間で自動更新がなされたことは一度もない。

(一) 上告人と被上告人鹿児島食品サービスとの最初の地区本部契約の期間は、昭和六〇年一一月二〇日までであり、この地区本部契約にも自動更新条項が定められていた(甲七の一、九条二項)。にもかかわらず、当事者の合意により、満了日が約五か月後の同六一年四月三〇日となった(原判決一六丁裏一行目~一七丁表一行目)。

(二) そして、右満了日の翌日である同年五月一日の契約更新に際して、契約期間を従前の五年から三年に短縮して、新たな契約書に合意で記名・押印した(原判決二〇丁表一行目~一一行目)。

3 このように、自動更新の実績がまったくなかったというのが実情である。したがって、この点を信義則違反の一事情として取り上げることは不当である。

八 結論

以上のとおり、原判決は、更新拒絶の効力の発生を阻止する信義則違反か否かを考慮する際に、考慮の対象に入れてはならない事情を入れ、あるいは、入れるべき事情を入れていないのであり、十分な審理を尽くしていなく、ひいては、信義則違反に関する解釈を誤ったものであり、破棄を免れない。

特に、原判決は、「本件地区本部契約は、経済的合理性を追求する企業間の契約であり…」と正しくその本質を捉えながら、前記三~六のとおり、被上告人ら側の不利益を主に考慮している点は、余りにも一方的であり、これらは経済的合理性を追求する企業間の取引の生成・発展・消滅については必然的に発生する事態であることを考えると、この点からも信義則適用についての解釈を誤ったものといえよう。

第三 期間満了後相当期間経過による契約の終了に関する審理不尽・釈明義務違反・法解釈適用の誤り

一 原判決の判断

原判決は、更新拒絶が信義則違反により効力が発生しないとの判断をしただけで、これ以外に、契約期間満了後相当期間が経過することにともない契約が終了する、という視点からの審理・判断をしていない。この点に関して、原判決は、審理を尽さず、適切な釈明権を行使すべきであったにもかかわらずこれを怠り、ひいては、継続的契約の終了事由に関する法解釈適用を誤った違法がある。

二 継続的契約の更新拒絶に関する下級審裁判例の動向

1 本件と同様に、期間満了による更新拒絶の効力が争われた事件で、判例集に登載されている主要な事件としては、札幌高裁昭和六二年九月三〇日決定、名古屋地裁平成二年八月三一日判決、仙台地裁平成六年九月三〇日決定の三件がある。事案の概要等は、別紙のとおりであるが、いずれの事案も契約期間の満了(更新拒絶)により、契約の一方当事者が大きな損失を被るという事案であった。しかしながら、札幌高裁決定及び名古屋地裁判決では、期間満了後一年間に限って従前の契約の効力の持続を認め、また、仙台地裁の決定では、期間満了後六か月の経過により契約関係が消滅するとの判断がなされている。

2 これらの裁判例は、継続的契約の更新拒絶によって一方当事者に大きな不利益を与える場合には更新拒絶の効力を簡単には認めないが、それだからといって、契約関係が期間満了後も長期間にわたって続く、という考え方も取っていないのである。期間満了後、相当期間が経過した時点で契約は終了することを前提に、右のような判断を下しているのである。

三 本件事件へのあてはめ

1 原審が、上告人による更新拒絶が信義則に反するもので、効力が生じない、と判断したのであれば、右下級審裁判例に示された理論にしたがって、期間満了後相当期間が経過することによる契約の終了について言及すべきであった。

2 被上告人らも平成三年一二月一六日付け準備書面第四の三で、右判例の一部を引用し、さらに、上告人も平成四年三月一三日付け準備書面で同様の判例を引用して反論している以上、本件でも、期間満了後の相当期間がどの程度の日数なのかを審理すべきであった。また、訴訟当事者、特に、上告人に対して、このような主張・立証を促すべきであった。

3 しかし、このような審理を尽くさず、釈明権を行使せずに、審理を終結した原判決は、審理不尽、釈明義務違反、ひいては、継続的契約の終了に関する法解釈適用の誤りがあり、原判決は破棄を免れない。

第四 結論

以上第一から第三で述べたとおりの上告理由があり、そのいずれの点においても、原判決を先例として残すことは、法的安定性を揺るがし、商取引の発展を著しく阻害することになりかねないことにも鑑み、上告審において、原判決を破棄し、相当な裁判を求める次第である。

以上

(別紙添付書類省略)

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